ポートサイドには当初の予定よりかなり早い、夕方17時に着いた。
 局長の「外に出ないの?大丈夫?」の声を背に、それでも新聞局にいる面々は急いで仕上げにかかる。
 元々、ポートサイドにはブラリ出られればいいと思っていただけで、どこへ行こうどこを回ろうという計画はほとんどない。
 この日よりだいぶん前の昼食で一緒になったじいさんは「普通、客船はアレクサンドリアへ行くものじゃっ!ポートサイドなんてビンボ臭い港に寄港するなんて!」とフンガイしていた。
 アレクサンドリアもポートサイドも、どくとるマンボウ航海記の寄港地の一つである。行きたいのは山々だった私としては、全面から「いえ、この船普通の客船じゃないですから」とは言えなかった。
 というか、ビンボ臭いはあまりに失礼だろう。

 補足すると、エジプト第二の都市アレクサンドリアは、かの有名なアレクサンドロス大王が建設した都市であり、ナイルデルタの中にある。
 かつては、世界七不思議のひとつである、ファロスの灯台があった都市だ。
 また、アレクサンドロス大王には角があったという伝説があるそうだが、ここではかなりどうでもいい話である。

 前述のじーさんはビンボ臭いと決め付けていたが、スエズ運河の地中海側にあるこの町は、中々の発展途上都市に見えた。

 港前の高層住宅の屋根には、ずらりと衛星放送用のアンテナが立ち並ぶ。
 やや雑然として見えるが、これもアラブの町並みの魅力なのかもしれない。
 大学時代、中東学を教えていた先生は「スークの雑然さと迷宮のような店の並びが魅力なのだ」と力説していた。
 確かに、アラブのスークは一度入ったら出てこれないような不思議な魔力を感じる。