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航跡 [地球一周の船旅]

 新聞局に戻って最後の新聞をあちこちいじっていると、局長がやってきた。
 もう最後の新聞はできているのかと聞かれたので、明日局員をかき集めて最後のメッセージを書いてもらいます、それで終わりですと言うと、甚くがっかりされたご様子だった。

 局長の口調は、決して激しく責めるわけでもなかったのだが、落胆しているのは明らかだった。怒られるよりもこれは辛い。
「あのね、最後の新聞が遅れるって、すごくみっともないよ?」
 私は、パッキングデーで荷物の回収が終われば、新聞編集がまだできると思っていたので、これには驚いた。
「あと、何人くらいで埋まる?」
 既に時間も遅く、私は逡巡したが迷っている暇は無い。ここで皆を集めないと、局員たちの言葉は永遠に掲載されなくなってしまう。
 局長も落胆していただろうが、私は恐らく、それ以上に自分にがっかりしていた。
 ここまできて、この最後のときまできて、私はまだ船内新聞に対して真摯に向き合っていなかったのだという思いがのしかかった。
 船に乗る前のパーティで、局長が私のところに走ってきたときから、とある大事件で新聞局全体が落ち込んだのを見たときから、私は新聞に真摯に取り組もうとしていたのではないか。でもまだ、そうでなかったのだ。

 私は急ぎメインの新聞局員たちに電話をかけ、時には寝ているところをたたき起こしてもらい、駆けつけてもらってメッセージを書いてもらった。局員たちは文句を言わなかった。
 たたき起こされたうちの一人が、その後の編集も手伝ってくれることになった。
 なるべくみんなの言葉を削りたくないので、二人で四苦八苦していると、彼は自分の言葉をばっさり切ってくれた。そしてさらりと付け加えた。
「この方が目立つじゃないか」
 しかし夜中だったため、メインメンバーのうちの数名からコメントを聞き損ねた。
 私にも責任がある。
 私の書いた言葉は、出なかった局員の言葉をフォローしようとしたものだった。そのため記事位置を指定して入れさせてもらった。

 まだ書かれていなかったタイトルと、レイアウトを見ながら私は彼に言った。
「最後のワガママひとついい?」
「いいよ」
 それは、タイトルを私が決めること。タイトルは決まっていた。「局員たちの航跡」と。

 校正版を出し、局長に見せ、上からもOKが出た。
 版をつくり、明日すぐ印刷できるようにしておく。
 船での最後の新聞作成が、深夜遅くに終わった。
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