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隠者の心 [船上コラム・我思ふ]

 横浜港に戻るまでに、今日を入れて残り4日になった。
 相変わらず船の周囲はずっと海と雲と空で、まだ陸地は見えない。
 ここ数日、私は後部デッキから、船の航跡を眺めていることがよくあった。
IMG_4335.jpg

 その昔興味を持っていた占いのタロットカードには、「隠者」というカードがある。
 私が読んだ本では、カンテラを捧げ持ち暗い道を歩く隠者は、未来を暗示する右の道ではなく、過去を示す左を見ているという。
 後部デッキから航跡ばかりを見ている私は、まさにその隠者だった。
 何を考えていたわけでもない。
 ただ黙して航跡のみを目で追っていた。

 デッキに人は少なく、ノルディックウォーキングの人影すらも無い。
 乗組員が掃除しているのをたまに見かけるだけだった。
 日本に近くなると、荒れ模様だった空も段々と晴れてきた。

 日本に帰るというのは、なんだか複雑な心境だった。
 日本に帰れば、新聞チームをはじめとする仲間たちのほとんどに、直に会うことは難しくなる。
 それが非常に寂しかったが、もうひとつ心を落ち込ませる出来事があった。
 それは、まさに日本に帰るその日に、ピースボートセンターさいたまが閉鎖されるということだった。
 これは多くのピースボートセンターさいたまメンバーを落ち込ませていた。なんだか帰る場所が無くなってしまったかのような寂しさだった。
 日本に帰って家族に会うことは楽しみのひとつだ。
 だが、日本に帰ってからどうするのか。しばらくは通院治療となるだろうけど、いつまでもそうはいかないだろうし、その後の不安も漠然とある。

 航跡を眺めているうちに、考えは段々と移り変わっていった。
 航跡はしばらく続いて水平線の果てまで伸びている。
 
 そうか、航跡か。

 作られた船内新聞は、そのあとの数航海、もしくはそれ以上参考になるように船に乗せられている。
 みんなで頑張った航跡は、確かに残るのだ。
 航跡のように、水平線の向こうに消えるまでは残る。このクルーズに乗った人のところにも、新聞は想い出の品として残るだろう。
 最後の新聞の、最後の記事のタイトルは決まった。
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