ノルマンディーの風に吹かれて [船上コラム・我思ふ]
大学時代の友人に、フランス語を極めるべく留学した人がいる。
彼女が最初にフランスに渡った時、フランスでは日本人が乗った飛行機がハイジャックされ、日本人女子学生の殺人事件が起こった。
私も思わず彼女が巻き込まれたのではと仰天したくらいだから、ご両親はもっと心配だっただろう。
事件の数日後、日本に戻って来たら「なぜ連絡しなかったのだ」と両親にどえらく怒られたらしい。
数日後に帰ることは伝えてあったし、怒られた理由がわからない彼女は、私に連絡してきた。
なので、私は彼女に事件があった旨を伝えた。
「フランス語のニュースわからなくってさ~」
何しに行ったんじゃ、おぬしは。
この一言に奮起したのか、またまた彼女はフランスへ渡った。
今度はドイツに近い町に滞在し、本格的にフランス語を学び、ニュースにも目を光らせていたらしい。
しかし、彼女の奮闘虚しく、何も事件は起こらなかった。いや、起こらないほうがいい。
しかし、ドイツに近いその町は、フランスというよりドイツ料理に近く、1年近くザーアクラウト(キャベツの酢漬け)と付き合ってきた彼女は、日本に戻ってもザーアクラウトのビンを見るだけで疾風のごとく消えるようになってしまった。
その彼女は、ある日ノルマンディーの断崖を見に行こうと思い、一人出かけた。
断崖付近に行くと、観光客たちがしきりに下を覗き込んでいる。
彼女も行ってみてヒョイとのぞき込むと、そこは断崖の端だった。
折しも運悪く、後ろから一陣の風が吹いて危うく落ちるところだったので、彼女はホウホウの体で断崖から離れた。
日本に戻ってきて、彼女は生真面目な顔で言った。
「自己責任なのよ!外国は日本みたいに、観光客を柵とかで甘やかしていないの!」
確かに、海外の観光地は危険そうな場所でも、ロープ一本はっただけなどの防護策しかしていないところが多い。
自然を大事にするカナダはもっとすごく、落石で観光バスが潰れても、そこの崖を決して固めたりはしないようだ。グリズリーに鉢合わせてぶっ飛ばされたとしても、やはり人間が悪いということになるらしい。
その彼女はノルマンディー旅行のついでに、モンサンミッシェルにも行ってみた。
昔は砂州が島と大陸をつなぎ、わずかな時間の間に砂州を渡り切らねば、海に飲まれてしまっていた。
今は立派な橋があり、橋の上に駐車場まであったという。
しかし、この橋が元で島周辺の海流がおかしくなってしまったという。
彼女はその橋を、巡礼者のごとく歩きで渡った。
途中、何台もの観光バスに追い抜かされ、排気ガスをぶっ掛けられ、それでも歩いた。
島についた頃にはへたばってしまったそうだが、それもまた良い経験かもしれない。
感想を聞くと、やたら風が強かったので、すっかり髪型が変わってしまったとのこと。
もはや、橋を歩いている間に何かを悟ったとしか思えない感想である。
彼女の体験ではなく、留学生仲間の話だが、一人(日本人ではない)がどうしてもと冬のベネチアへ向かったそうだ。
真冬のベネチアはとても寒く、それでもゴンドラに乗った彼女はあまりの寒さに身を縮め、固まって船にゆられていた。
それを見たゴンドリエは、彼女が『恋人に振られて一人寂しくベネチアに来た可哀想な女の子』とカンチガイしたらしく、大きな声で朗々とカンツォーネを歌い…彼女は余計に寒い気分になったそうな。
ビスケー湾の風に吹かれ、そんなことを思い出していた。
明日には、ノルマンディーの一都市、ル・アーブルに着く。
彼女が最初にフランスに渡った時、フランスでは日本人が乗った飛行機がハイジャックされ、日本人女子学生の殺人事件が起こった。
私も思わず彼女が巻き込まれたのではと仰天したくらいだから、ご両親はもっと心配だっただろう。
事件の数日後、日本に戻って来たら「なぜ連絡しなかったのだ」と両親にどえらく怒られたらしい。
数日後に帰ることは伝えてあったし、怒られた理由がわからない彼女は、私に連絡してきた。
なので、私は彼女に事件があった旨を伝えた。
「フランス語のニュースわからなくってさ~」
何しに行ったんじゃ、おぬしは。
この一言に奮起したのか、またまた彼女はフランスへ渡った。
今度はドイツに近い町に滞在し、本格的にフランス語を学び、ニュースにも目を光らせていたらしい。
しかし、彼女の奮闘虚しく、何も事件は起こらなかった。いや、起こらないほうがいい。
しかし、ドイツに近いその町は、フランスというよりドイツ料理に近く、1年近くザーアクラウト(キャベツの酢漬け)と付き合ってきた彼女は、日本に戻ってもザーアクラウトのビンを見るだけで疾風のごとく消えるようになってしまった。
その彼女は、ある日ノルマンディーの断崖を見に行こうと思い、一人出かけた。
断崖付近に行くと、観光客たちがしきりに下を覗き込んでいる。
彼女も行ってみてヒョイとのぞき込むと、そこは断崖の端だった。
折しも運悪く、後ろから一陣の風が吹いて危うく落ちるところだったので、彼女はホウホウの体で断崖から離れた。
日本に戻ってきて、彼女は生真面目な顔で言った。
「自己責任なのよ!外国は日本みたいに、観光客を柵とかで甘やかしていないの!」
確かに、海外の観光地は危険そうな場所でも、ロープ一本はっただけなどの防護策しかしていないところが多い。
自然を大事にするカナダはもっとすごく、落石で観光バスが潰れても、そこの崖を決して固めたりはしないようだ。グリズリーに鉢合わせてぶっ飛ばされたとしても、やはり人間が悪いということになるらしい。
その彼女はノルマンディー旅行のついでに、モンサンミッシェルにも行ってみた。
昔は砂州が島と大陸をつなぎ、わずかな時間の間に砂州を渡り切らねば、海に飲まれてしまっていた。
今は立派な橋があり、橋の上に駐車場まであったという。
しかし、この橋が元で島周辺の海流がおかしくなってしまったという。
彼女はその橋を、巡礼者のごとく歩きで渡った。
途中、何台もの観光バスに追い抜かされ、排気ガスをぶっ掛けられ、それでも歩いた。
島についた頃にはへたばってしまったそうだが、それもまた良い経験かもしれない。
感想を聞くと、やたら風が強かったので、すっかり髪型が変わってしまったとのこと。
もはや、橋を歩いている間に何かを悟ったとしか思えない感想である。
彼女の体験ではなく、留学生仲間の話だが、一人(日本人ではない)がどうしてもと冬のベネチアへ向かったそうだ。
真冬のベネチアはとても寒く、それでもゴンドラに乗った彼女はあまりの寒さに身を縮め、固まって船にゆられていた。
それを見たゴンドリエは、彼女が『恋人に振られて一人寂しくベネチアに来た可哀想な女の子』とカンチガイしたらしく、大きな声で朗々とカンツォーネを歌い…彼女は余計に寒い気分になったそうな。
ビスケー湾の風に吹かれ、そんなことを思い出していた。
明日には、ノルマンディーの一都市、ル・アーブルに着く。
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